弱者の兵法

砂パとラーメンと腋が好きなちなヤクです

阿部慎之助の引退に思うこと

お久しぶりです。元巨人ファンのななせです。

 

個人的に「引退」ってワードはすごく重いものだと思っていて、ポケ勢がレートやめるときに言う「今期でポケモン引退します」とか、大学生がサークルの代替わりで言う「サークル引退しました。」みたいなのがすごく違和感あるんですよね。

引退ってそんな軽いものじゃない。人生かけて必死に戦って戦って戦い抜いた人間だけが「引退」を口にできる。勝手にそう思ってます。

 

 

今朝起きたら「阿部慎之助引退」という文字が目に入ってきて、半分寝てた頭が一瞬で目覚めた。

巨人の正捕手、主将、4番、全てを一度に背負った男。

巨人ファンにとって阿部慎之助という選手はすごく特別な選手で、ある意味松井秀喜高橋由伸上原浩治以上の特別さがあると思う。

 

僕と同世代、25歳前後の巨人ファンならきっと大体の人が2002年の読売ジャイアンツの記憶が鮮明に残っていると思う。

1番レフト清水、2番ショート二岡、3番ライト高橋由伸、4番センター松井…

松井秀喜が神の領域に足を踏み入れる50号を打ち、日本一を置き土産にメジャー移籍を決めた年、僕はその松井秀喜のホームランを観て野球というスポーツの虜になった。

そして、その年はプロ2年目の阿部慎之助が初めて正捕手として優勝と日本一を経験したシーズンだった。ここから阿部はプロ野球史上に名を残す捕手になっていく。

時が移ろい、松井がメジャーへ去り、ローズやペタジーニ、李承燁やラミレスが加入し、二岡が坂本になり、仁志や清水が移籍し、サードが江藤から小久保、小笠原、村田と変わってもキャッチャーは阿部のままだった。選手の入れ替わりが異常なほどに激しい巨人の中で、正捕手はずっと阿部慎之助

 

僕は野球を好きになってから今に至るまでの時間を、阿部慎之助のキャリアと共に生きてきたということに気づかされた。僕にとって阿部慎之助という選手は、初めてそのキャリアを頭からケツまで目にしてきた選手なのだと。だから阿部の引退がこんなにも寂しく、胸を打つのだと。

村田真一の後継者からサヨナラ慎ちゃんと呼ばれ、いつしか巨人の主将と4番になり、時に宅配屋のシンちゃんになってGカップグラドルに密かに会いに行き、捕手史上最高打率の首位打者とMVPを獲り、名実共に球界の頂点に立った。

そのキャリアの中でも2012年は神がかっていた。5月19日、ソフトバンクの攝津から左中間スタンド最前列に先制2ランを放った時のフォームとスイングは美しすぎて忘れられない。

力感なく、軸がピタッと止まって素直に打ち出せる。逆方向にも綺麗に打ち返せる。あのフォームは阿部しかできないフォームなんだなと思って当時何度も動画を見返してた。芸術かと思うくらい本当に美しかった。

捕手としても強烈なキャプテンシーを放ち、シーズン中にはキューバの至宝グリエルに喧嘩を売った男笠原の投げ急ぎを制してリードし勝利に導き、日本シリーズでは澤村の頭を殴って神がかった投球を演出した。こんな捕手が今後出てくるのかと考えても全く想像がつかない。

 

だからこそ、衰える時もすぐに気づいてしまった。2013年終盤、持ち味の逆方向への打球が影を潜め、引っ張る打球が徐々に増えて打率が落ち、ホームランは30本を超えたけど前年ほどの成績は残せなかった。

そして迎えた楽天との日本シリーズ、美しかったフォームの面影がないめちゃくちゃな形で打っている阿部を観て愕然としてしまった。

(そうか…阿部にも衰えが来たんだ…)という事実を突きつけられて、怪我と不振で成績を大きく落としてしまった2014年のことをその時に予感してしまった。

 

そこからは本当に自分との戦いだったのでしょう。故障を繰り返し、往年の打撃ができなくなり、「野球が下手になっていく」と口にするほど精神的に追い込まれ、内野手転向の打診を何度も固辞してまで拘ってきた捕手もできなくなり、一度は捕手を諦めた。

それでも諦めきれなくて再転向し、肉体が追いつかず無理と判断したらチームのために代打にも徹した。どれだけ悔しい思いをしてきたか想像もつかない。

 

だからこそ苦難を乗り越えてきた阿部の姿は誰よりも輝いて見えた。自分が巨人ファンじゃなくなった今でも特別に見えた。

2017年の開幕戦に打ったレフトスタンドへのホームランは(2012年の阿部が帰ってきた…!と)一瞬錯覚するくらい美しかったし、2000本安打と400号本塁打は涙が出そうになるくらい嬉しかった。記録を達成する度に、長嶋茂雄王貞治らレジェンドの名前が挙がる。

ルーキーイヤーに打てない打てないと叩かれ続けた男は、今やONと比べられる程のレジェンドに登り詰めた。

 

結局、巨人というチームはずっと「慎之助のチーム」だったんだなと今になって思う。だって「阿部慎之助がいない巨人」なんて全く想像がつかないもの。

野球を好きになってからずっと、巨人軍の中心にいたのは背番号10。いなくなるなんて全く想像つかないや。

 

 

現役最終年に成績を上げて、400号を達成して「まだやれる」と惜しまれながら引退する。こんなに美しい引き際はない。

ありがとう、阿部慎之助

あなたは史上最高の捕手でした。